高年雇用安定法の改正経緯によれば,60 歳を超える者の雇用確保については一貫して,多様な形態による雇用・ 就業機会の確保が図られることが重要であり,そのために同一企業又は 同一企業グループ内において定年延長,勤務延長,再雇用等の継続雇用 を計画的かつ段階的に進めていくこと等が重要であるとされており,そ れを踏まえて同法9条が規定されたと解されるのであるから,少なくと も,同条は,同一企業のみならず同一企業グループにおいて継続して雇 用・就業の場の確保を図ることも高年雇用安定法の目的を達する方法・ 手段として想定していたことは明らかであり,同条1項2号で定める継 続雇用制度に,転籍という方法による雇用継続がおよそ含まれないと解 することはできない。
もっとも,同条1項2号の上記趣旨及び同号が「事業主に対してその 雇用する高年齢者の安定した雇用を確保するために同項各号に定める措 置を講じなければならない。
」としていることを総合すると,事業主が 転籍型の継続雇用制度を採用する場合,特段の事情でもない限り,事業 主と転籍先との間で少なくとも同一企業グループの関係とともに転籍後 も高年齢者の安定した雇用が確保されるような関係性が認められなけれ ばならないと解するのが相当である。
そこで,本件であるが,本件制度では,被告を退職した後に再雇用さ 46 れる予定の別会社たる地域会社(転籍先)は,いずれも被告あるいは, 被告が全額出資して設立した会社等が全額出資して設立した会社であり (上記前提事実(3)),資本的な密接性が認められるのみならず,再雇用 に関する就業規則を制定して,一雇用期間における欠勤日数が一定数に 達した者や更新時に健康上の問題があるものを除き,基本的に再雇用及 び更新されることとし,現にそのように運用されているというのである から,本件制度は,事業主と転籍先との間に同一企業グループの関係と ともに転籍後も高年齢者の安定した雇用が確保されるような関係性が認 められるといえ,本件制度が地域会社における再雇用制度であることを もって同条1項2号に反するとはいえず,かえって,同号で定める継続 雇用制度に適合する制度であるといえる。
(イ) 原告らの上記第2の4ウの主張について 原告らは,地域会社の契約社員制度は,会社の業務上の必要性がある 場合に更新されるものであり,労働者が希望した場合に65歳まで雇用 を保障していないから,本件制度が高年雇用安定法9条1項2号の継続 雇用制度にあたらない旨主張している。
しかし,同条1項2号で定める継続雇用制度は上記のとおり各事業主 が実情に応じて柔軟な措置をとることが許容されているところ,労働者 が希望した場合に無条件で年金支給開始年齢までの雇用が保障されてい ないことをもって直ちに同号で定める継続雇用制度に該当しないという ことはできない。
そして,地域会社での定年後の雇用期間はキャリアスタッフ制度と同 様に一雇用期間における欠勤日数が一定数に達した者や更新時に健康上 の問題があるものを除き,基本的に雇用終了年齢に至るまで再雇用(更 新)される扱いとなっており,上記(2)アで説示した同法9条の趣旨に反 するとまではいえず,後述するところも勘案すると,同号で定める継続 47 雇用制度に適合する制度であるといえる。
したがって,この点に関する原告らの主張は理由がない。
(ウ) 原告らの上記第2の4(2)エの主張ついて 原告らは,地域会社の契約社員制度は,法の求める賃金収入を被告の 従業員にもたらさない(本件制度のうち,最終,65歳までの継続雇用 が可能となる繰延型,一時金型は,60歳を超えて継続雇用された場合 に得られる賃金額が60歳満了型を選択した場合よりも低くなる。
)か ら,高年雇用安定法9条1項2号の継続雇用制度に該当しない旨主張す る。
しかし,高年齢者の雇用は事業主に相応の負担を生じさせるものであ ること,また,同条1項2号で定める継続雇用制度は上記のとおり各事 業主が実情に応じた柔軟な措置をとることを許容していることを踏まえ ると,労働条件が低下することをもって直ちに同号で定める継続雇用制 度に該当しないとまではいえない。
そして,平成16年建議において「65歳までの雇用確保に当たって は,今後の労働力供給動向を踏まえた人材の確保,雇用・就業ニーズの 多様化や厳しい経営環境の中での総コスト管理の観点からも,労使間で 賃金,労働時間,働き方等について十分に話し合い,賃金・労働時間・ 人事処遇制度の見直しに取り組むことが必要である。
」と指摘されてお り,立法段階において,各企業の実情を考慮すること,殊に限られた経 営資源の中で65歳までの雇用確保を求める場合,賃金減額や労働時間 の短縮を検討することも必要との認識があったと解されること,地域会 社における退職金等において一定の措置が採られていること,勤務地も 限定的なものとなり,かつ,雇用保険等,公的給付や企業年金の支給と の組み合わせ等により,多様な生活スタイルに応えるものとなっている と評価しうることを総合考慮すると,繰延型又は一時金型を選択した場 48 合に総所得が低下する場合があるとしても,そのことのみをもって直ち に同号で定める継続雇用制度に反するとまではいえない。
加えて,本件制度は,被告の労働者の99%近い従業員が加入するA 労組の合意が得られていること及び現にこれら労働者による雇用形態等 の選択がされて機能していると解されることを勘案すると,労使の協議 ・工夫による制度と評価でき,この点からも同法9条の趣旨に反した制 度とはいえない。
したがって,この点に関する原告らの主張は理由がない。
(エ) 原告らの上記第2の4(2)オの主張ついて 原告らは,雇用形態等の選択について,早くとも55歳以上の時点で 従業員が選択できる制度でなければならないのに,被告は,50歳の時 点で雇用形態等の選択をさせており,高年雇用安定法9条1項2号に反 する旨主張する。
しかし,継続雇用に関する希望を聴取する時期や方法は高年雇用安定 法に明定されておらず,基本的には事業主側の裁量に任されているとこ ろ,被告は,上記前提事実(4)(5)で記載したとおり,平成14年1月こ ろ及び平成18年1月ないし2月に被告の労働者に対し,雇用形態や処 遇体系等を説明した上でその選択の機会を設けており,その際,選択内 容である雇用形態や処遇の内容(労働条件等)について具体的に説明し, 意向聴取もしていることに同選択の際,被告において,原告らに特定の 選択をし,あるいはしないように脅迫ないし強制をしたような事情もな いことを総合すると,被告が原告らに求めた同選択について,高年雇用 安定法違反と認めることはできない。
なお,50歳の時点で処遇形態等の選択をさせ,その後選択の機会を 与えないとすることについては,当否の問題がなくはないものの,本件 では再選択の機会があることから,少なくとも高年雇用安定法9条1項 49 等に反するとはいえない。
以上によれば,継続雇用の希望聴取時期や方法に関して被告に裁量違 反を認めることができない。
したがって,原告らの上記主張は理由がない。
(オ) 原告らの上記第2の4(2)カの主張について 原告らは,平成14年の雇用形態等の選択の際及び平成18年の再選 択の際,被告が従業員にまともな説明をしておらず,高年雇用安定法9 条1項2号の継続雇用制度が予定する選択の機会が与えられていない旨 主張する。
しかし,高年雇用安定法上,同法と当該事業主が採用している継続雇 用制度との関係を具体的に説明すべき義務を明定した規定はなく,本件 制度が同法9条1項2号で定める継続雇用制度に該当することは上記イ の(ア)ないし(エ)で認定説示したとおりであるところ,被告は,本件制 度の対象となる従業員に対し,平成14年の雇用形態及び処遇体系の選 択を求める際,選択内容である雇用形態や処遇の内容(労働条件等)に ついて具体的に説明しており,それ以上に本件制度と同法との関係につ いて,その当否は別として,説明をすべき義務まではなかったと解する のが相当である。
また,本件制度による雇用形態等の選択ないし再選択が,事業上の必 要性を主たる要因として実施されていたとしても,そのことによって本 件制度が高年雇用安定法9条1項2号の継続雇用制度に該当しないこと になるわけではない。
なお,上記のとおり上記雇用形態等の選択ないし再選択にあたり,被 告が原告らに対して特定の選択をし,あるいはしないように脅迫ないし 強制をしたような事情はない。
したがって,原告の上記主張は理由がない。
(3) 補足 その他,本件全証拠によっても被告の不法行為責任を基礎付ける事実を認 めるに足る証拠はない。
(4) まとめ 以上によれば,被告は,高年雇用安定法9条1項2号で定める継続雇用制 度に該当する本件制度を実施しており,被告について,同項違反は認められ ない。
仮に同条項に反したとしても被告の60歳定年制が無効となって,定 年の定めのないものとなるわけではなく,また,直ちに私法上の債務不履行 責任ないし不法行為責任を基礎付けるものではないことは上記のとおりであ る。
したがって,その余の点について判断するまでもなく,原告らの地位確認 請求,賃金請求及び不法行為に基づく損害賠償請求(主位的及び予備的の両 方を含む。
)は,いずれも理由がない。
第4 結論 以上の次第で,その余の点(損害等)について判断するまでもなく,原告ら の請求はいずれも理由がないから,棄却することとして主文のとおり判決する。
主文 1 A事件控訴人ブラザー工業株式会社の控訴を棄却する。
2 B事件控訴人X 1・同X 2の控訴に基づき,原判決を次のとおり変 更する。
- 5 - (1) 一審被告は,一審原告X 1に対し,3188万2587円及び 別紙「認容金額一覧表」の「表1 認容金額一覧表(一審原告X 1)」 記載の「支払時期」ごとの各「合計」に対する各「支払時期」から 各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
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